『かにしの』の感想です。ネタバレもあるので、読まれる方は注意してください。


久しぶりに堪能した作品でした。初めはルートによって主人公の設定(過去や性格の細部など)が変わる構成に心配しましたが終わってみればなんの問題も無く、すべて面白いシナリオでした。結局面白ければ、多少のことは気にならないものですね。それに主人公の司の根幹は結局変わらないものでしたし。

個人的に気に入った点が二つあります。一つは「主人公がヒロインを救い、ヒロインが主人公を救う」という点をとても丁寧に書いた点です。「司はヒロインを救えるほどに強い」という部分がまた司の最大の弱さであり、司に手を引かれて歩き出したヒロインが今度は司の手を引くというのが基本的に話の肝になっています(一部例外もありますが) この頼り頼られるという部分の書き方が秀逸かつ多様で、今度はどんな話になるんだろうと読み進めました。そしてまたこの部分がヒロインを魅力的にみせていました。個人的には美綺シナリオとみやびシナリオ、梓乃シナリオがお気に入りです。

もう一つは「清濁併せ呑む」とでもいいますか。ヒロインや関係者はいろんな面を持っていて、他のゲームでは改心させられたり断罪されそうなキャラクターも多数出てきますが、そういったある種の切り捨て方をしないで場合によっては落としどころを模索したり、結局わかりあえなかったりという展開を見せてくれます。私は基的には「ゲームは楽しく」という考え方ですが、『かにしの』の場合はそういった部分を司やヒロインの障害、もしくはバックボーンとしてうまく活用していたように思います。この点では邑那シナリオと殿子シナリオが気に入ってます(殿子シナリオのエピローグの都合よさは私的にはもったいないなあ、と思うのですが)

そしてなにより、それらを丁寧に書ききっている点がこの作品の完成度を高めていると思います。ベクトルは違う作品ですが『はるのあしおと』を私が好きなのも「あのテーマ」を丁寧に書き上げている点にあります。ああいった「完成度」が好きな方には間違いなく楽しめる作品だと思います。

テキスト的には私は分校ルートの方がお気に入りでした。叙情的な書き方が多いのですが、これがこっちルートの司の若干の消極性とあいまってゆっくりとした時間の流れを出していたように思います。逆に本校シナリオは場面転換や視点変更を多用しているのと、司の積極性でテンポよく話が進んでいきます。私が分校ルートが好きというのは完全に好みの問題です(^^;

各ヒロイン個別の魅力はプレイすればわかる話なので割愛します(笑)というか、私的には「ハズレ」は話は一つも無いので、あまり変な先入観を持たずに遊んで欲しいですし、プレイした方なら書かなくてもわかると思いますしね。一つだけ書くなら、最初のプレイは美綺シナリオにするのをお勧めでしょうか。

んで最後に……個人的な主義には反するんですが…魅力的なサブヒロインが多すぎます(笑)